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甲府地方裁判所 昭和43年(わ)84号 判決 1968年12月18日

被告人 鷹野喜一 外二名

主文

被告人鷹野喜一を懲役二年に、被告人松田久雄を懲役四月に、被告人小田切ヨシエを懲役八月に処する。

この裁判確定の日から、被告人鷹野喜一、同小田切ヨシエに対し三年間、被告人松田久雄に対し二年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

被告人鷹野喜一から金五万円を追徴する。

訴訟費用は全部被告人鷹野喜一の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人鷹野喜一は、昭和四二年五月一日から山梨県韮崎林務事務所長として同県の為同事務所管内の県有林の管理、立木の公売等林産物の処分の事務全般を統括処理していたものであるが、

一、地方自治法二三四条、同法施行令一六七条、山梨県林務事務所処務規程(現在、県行政組織規則)一六条の二三号等によれば、県有林の立木を売却するために一般競争入札の方法を採つた場合、林務事務所長としては、県知事の承認をうけた最低の売却予定価格の制限のもとに、入札者中最高の価格をもつて申込みをした者を落札者とし、これを公表してこの者との間に売買契約を締結しなければならないにも拘らず、

1、昭和四二年九月二二日、甲府市丸の内一丁目五番四号所在山梨県恩賜林記念会館に於て、同林務事務所担当のもとにその管内の北巨摩郡須玉町小尾三沢地内県有林一三三林班たる小班唐松立木一、五四九本五七三・七三立方メートル(予定価格二、六五三、一六四円)の一般競争入札が行われた際開札の結果入札参加者である松田久雄が五、八六六、〇〇〇円の最高価格をもつて入札していたにも拘らず同人の利益を図る目的をもつて前記任務に背き、即時同所において勝手に入札整理表の同人の右入札価格を四、八六六、〇〇〇円と減額訂正して同額で同人が前記立木を落札した旨発表し、同月二五日韮崎市韮崎町所在の韮崎林務事務所において、同事務所長として右松田久雄との間で契約書を作成して右同額をもつて右立木の売買契約を締結し、よつて山梨県に対し百万円相当の得べかりし利益を喪失せしめて損害を与え、

2、昭和四三年四月二三日、右山梨県恩賜林記念会館に於て、韮崎林務事務所担当のもとに、その管内の韮崎市内円野町字御座石山地内第一七林班と小班栂等立木一、二二三本、一七八・九三立方メートル(予定価格二七五、四八一円)の一般競争入札が行われた際、開札の結果入札参加者である小田切常雄が三、六〇〇、〇〇〇円の最高価格で入札していたにも拘らず同人の利益を図る目的をもつて前記任務に背き、即時同所に於て勝手に入札整理表の同人の右入札価格を一、六〇〇、〇〇〇円と減額訂正して同額で同人が前記立木を落札した旨発表したが、その後同人との間で売買契約を締結する前の四月二四日別件背任等被疑事件で逮捕された為その目的を遂げなかつたものである。

二、昭和四二年七月二四日、前記恩賜林記念会館に於て、同林務事務所担当のもとにその管内の北巨摩都白州町地内通称釜無山第六四林班に小班栂等立木二、七七六本五三四・一六立方メートルの一般競争入札が行われた際、開札の結果入札参加者である有限会社日興電建(代表取締役上中善太郎)が一、七五六、五〇〇円の最高価格で入札していたにも拘らず、一、六二〇、〇〇〇円で三番入札した興進木材株式会社(代表取締役蔦木滋男)に落札せしめる目的をもつて即時同所に於て勝手に入札整理表の同会社の右入札価格を一、八二〇、〇〇〇円と増額訂正して同額で同会社が前記立木を落札した旨発表し、同月二八日前記韮崎林務事務所において、同事務所長として右興進木材株式会社との間で契約書を作成して右同額をもつて右立木の売買契約を締結し、もつて偽計を用い入札の公正を害する行為をなすと共に、職権を濫用して前記最高価格入札者である有限会社日興電建の本契約締結権の行使を妨害し、

三、昭和四三年一月一九日、前記韮崎林務事務所に於て、同事務所担当のもとにその管内の北巨摩都白州町地内通称釜無山第七〇林班は、に小班栂等立木三、九七一本六〇六・三五立方メートルの一般競争入札が行われた際、開札の結果入札参加者である神田林産株式会社(代表取締役若菜準作)が二、〇五〇、〇〇〇円の最高価格で入札していたにも拘らず、約二、〇〇〇、〇〇〇円で二番入札した株式会社内藤製材所(代表取締役内藤登)に落札せしめる目的をもつて、即時同所に於て勝手に入札整理表の同会社の右入札価格を二、二五〇、〇〇〇円と増額訂正して同額で同会社が前記立木を落札した旨発表し、同月二五日同林務事務所に於て、同事務所長として右株式会社内藤製材所との間で契約書を作成して右同額をもつて右立木の売買契約を締結し、もつて偽計を用い入札の公正を害する行為をなすと共に、職権を濫用して前記最高価格入札者である神田林産株式会社の本契約締結権の行使を妨害し、

四、昭和四二年九月二二日、甲府市山宮町三九番地の自宅に於て、右松田久雄から前記第一の一の1項判示の如く県有林立木の一般競争入札につき松田久雄の為にその入札価格を百万円減額して同人に右立木を落札せしめたことに対しその謝礼の趣旨で供与されるものであることを知りながら、現金五〇、〇〇〇円を受領し、もつて職務上不正の行為をしたことに関して賄賂を収受し、

たものである。

第二、被告人松田久雄は、右同日右同所に於て韮崎林務事務所長である同人に対し、前記第一の一の1項判示のとおり、同人が右林務事務所管内の県有林の公売に際し、自己の為に入札価格を百万円減額して落札させてくれたことに対しその謝礼として現金五〇、〇〇〇円を同人に交付し、もつて右鷹野の職務に関し贈賄したものである。

第三、被告人小田切ヨシエは従前県から落礼して伐採していた立木も少くなってきた為新しい山林を落礼しなければと焦り小田切常雄と共謀のうえ、昭和四二年五月下旬、前記鷹野喜一方自宅に於て、韮崎林務所長である同人に対し、同林務事務所管内の県有林立木等の公売が施行される際はこれに入札参加する三男小田切常雄に将来性ある区域を教示する等好意ある取り計らい方を依頼し、その報酬として右鷹野喜一に対し現金二〇〇、〇〇〇円の贈賄の申込みをしたものである。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

被告人鷹野喜一の判示第一の一、1項の所為は刑法二四七条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、同2項の所為は刑法二四七条、二五〇条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、判示第一の二、三の所為は各々刑法九六条の三、第一項、罰金等臨時措置法三条一項一号、及び刑法一九三条に、判示第一の四の所為は同法一九七条の三、第二項第一項にそれぞれ該当するところ、右判示第一の二、三の各所為は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから同法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い競売入札妨害の罪の刑で処断することとし、その所定刑並びに判示第一の一、1、2項の罪の各所定刑につきいずれも懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の四の罪(加重収賄)の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人鷹野喜一を懲役二年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、なお判示第一の四の犯行により被告人鷹野喜一の収受した金五万円の賄賂はすでに同人がこれを費消して没収することができないので、同法一九七条の五後段によりその価格五万円を同人から追徴することとし、訴訟費用はすべて同人の判示犯行に関するものであるから、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して全部これを被告人鷹野喜一に負担させることとする。

被告人松田久雄の判示第二の所為は刑法一九八条一項に、被告人小田切ヨシエの判示第三の所為は同法一九八条一項、六〇条に各々該当するところ、その所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人松田久雄を懲役四月に、被告人小田切ヨシエを懲役八月に処し、情状によりいずれに対しても同法二五条一項を適用して右各裁判確定の日から被告人松田久雄に対しては二年間、被告人小田切ヨシエに対しては三年間右各刑の執行を猶予することとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 降矢艮 宮崎昇 須藤繁)

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